2015-16シーズンはNBAのレジェンド、コービー・ブライアントの引退シーズンでした。
ファンにも選手にも愛されたコービーは、その年のオールスターに最多票で選出されました。
コービーがボールを持つだけで盛り上がり、3ポイントを決めただけで大歓声がおきたこの年のオールスターゲームは、長いNBAの歴史を考えればまだ記憶に新しい出来事です。
この年のレイカーズ最後の試合、コービー・ブライアントの引退試合となったユタ・ジャズ戦はチームメイトが意図的にコービーにボールを集めました。
それは決してコービーの調子がよく、良いプレーができるからではなく、単純にコービーのキャリアに敬意を払ってチームメイトやコーチが、コービーのために送った試合でもありました。
しかしコービーはこの試合、キャリアでも最高クラスのパフォーマンスを見せ圧巻の13連続得点を記録。チームを逆転勝利に導きました。
この日のコービーはゾーンに入っているとしか思えませんでした。引退試合、コービーに何があったのでしょう。
2015年11月の終わり、シーズン開幕から1か月がたった頃にコービー・ブライアントがシーズン限りの引退を発表しました。
輝かしいキャリアを歩んできたコービーですが、度重なる怪我と年齢による疲労が重なり、シーズン開幕から1か月のパフォーマンスは最悪と言っていいレベルでした。得意の3ポイントだけでなく、ミドルレンジですらゴールにとどかずエアボールとなってしまう場面も多々見られたコービーのシュートに、全盛期の正確さは微塵も見られない状態でした。
恐らく今季、もしくは来季2年以内には引退するのではないかと噂されていた時の突然の発表は、NBAファンの誰しもが衝撃を受けましたが、大きく驚くほど意外なことではありませんでした。
Dear Basketball: https://t.co/KDecft6BO2 #KB20
— Kobe Bryant (@kobebryant) 2015年11月29日
それからはシーズン限りで二度とお目にかかれないコービーの試合を一目見ようと、レイカーズ戦には対戦相手ですら多くのファンが駆け付けました。
試合終了時、コービーがベンチに下がれば両チームのファンから拍手と声援が起こり、対戦相手の選手はコービーと最後の挨拶を交わしていたようでした。
レイカーズにプレイオフに行けるような力はなく、レギュラーシーズンが最後の試合となった4月13日、この日はコービーが引退すると同時に彼のキャリアを総括したような試合となります。
試合は84-94でジャズの10点リード、引退試合だからと言ってジャズの選手も手を抜くことはあり得ませんでした。
チームメイトがボールを回して既に40得点以上していたコービーは第4クォーター残り3分20秒から驚異の集中力でゾーンに入ります。
得意のポストオフェンスに入ったかと思うと、一瞬のフェイクからターンしてゴール下にステップ、シュートフェイクからレイアップを決め全盛期さながらの動きを見せます。
次はハーフコートまでボールを運んだと思うとそのまま1on1、ドライブを仕掛けスピンと巧みな緩急でディフェンスのファールを誘います。
フリースロを2本決め4得点、しかし点差は残り1分50秒で8点とジャズ有利な状況からまたもやボールをもったコービーがゴール下に仕掛けます。
ギャロップステップでディフェンスのファールを誘いながらゴール下に突っ込み、シュート、これが決まり6点差。
そしてディフェンスに成功してボールを運ぶのはもちろんコービー、スクリーンをかけた味方に対してヘルプに反応したジャズの選手を見て、それ以上に素早くドライブで切り込みます。
逆モーションになったヘルプは動けず、ミドルレンジでフリーになったコービはのシュートがきまり8連続得点、コービーのクラッチパフォーマンスによって4点差まで詰め寄ります。
完全にノってしまったコービーを止められる選手はいませんでした。
ジャズのオフェンス失敗からサイドまでボールを運ぶと、僅かな隙をついて3ポイントシュート。これが決まり会場は大騒ぎ、タイムアウト中にコービーのミラクルショットが何度も繰り返されました。
試合は残り1分で95-96と1点差、またもやオフェンスした失敗するジャズにたいしてコービーがまたもややってくれます。
ハーフコートまでボールを運んだかと思うと、クロスオーバーでスクリーンを巧みに使って空いたスペースから3ポイントシュート、これも当たり前のように決めてしまいます。
2連続で3ポイントを決めたコービーは11得点。5/20と3ポイントが当たっていたとは言えなかったコービーですが、クラッチタイムに最高のパフォーマンスを見せます。
残り16秒でジャズはファウルゲームを仕掛けますが、コービーのフリースローが落ちるはずがなく13連続得点で5点差とし最後はコートからコートへのアシストを決め101-96で勝利。
終盤のオフェンスはほとんど時間をかけずに得点したコービーのシュートは全く落ちる気配がなく、ゾーンに入っているとしか思えないようなパフォーマンスでした。
この引退試合で、コービー・ブライアントの偉大さを改めて実感した人も少なくないと思います。
コービー・ブライアントはNBAでも最高のハードワーカーとして知られています。
練習はもちろん試合への準備を欠かすことなく食事制限まで設けてシビアな試練を自分に課してきました。それは歳を経ても変わらず、どれだけ衰えても引退するまで試合に対する姿勢は変わりません。
最後の引退試合をコービーは、ただの思い出としてでなく、チームを勝たせるためにプレーしていました。極限状態のコービーの集中力は、日ごろの絶えまない努力からゾーンとなって最高のパフォーマンスをもたらしたのだと思います。
コービーの愛称、ブラックマンバにかけて、マンバメンタリティと言われる試合に対する姿勢は、多くのNBA選手の見本となっています。
この日のコービーのように、ゾーンに入ったプレーをしてくれる選手が今後現れるのを期待したいですね。